ケイ・スリー
それから月日が経ちました。チャップは次第に元気をとりもどし、病気が完全に治り、とても美しい馬になりました。美しさだけではありません。今では牧場で一番の足の速い馬になっていたのです。その成長にマゴウも驚きました。マゴウには牧場主としての夢がありました。それは自分の牧場から「今年の馬」を出すことでした。
この国では、年に一度、馬コンテストがあります。この馬コンテストは、馬の足の速さを競うものです。コンテストに優勝して「今年の馬」になると高額な賞金と名誉が贈られます。そして「今年の馬主」には良い馬を育てたとして世の中に認められることになります。マゴウはこれまで何度も自慢の馬を参加させましたが、いつも予選で敗退して悔しい思いをしていました。そこにチャップの走る姿が目に止まったのです。
「あれはなんていう名前の馬だい。」
「チャップでございます。二年ほど前、ソン獣医に頼まれてカジュという少年が連れてきた馬です。これまで病気だったのが治ったものと思われます。」マゴウの召使のイワンが答えました。そんなこともあったのかと言ったもののマゴウは思いだせません。牧場にあるものはすべてマゴウのものです。広い牧場、大きなお屋敷、馬に牛、羊や使用人、道端に咲く一本の小さな花までマゴウのものです。結局、マゴウは今年のコンテストにチャップを参加させることにしました。もちろんカジュには何も断りもありません。チャップは勝手に連れ出しされてコンテストに連れていかれたのでした。
馬コンテストにはレース用の馬や戦争のための軍馬、重い荷物を運ぶ馬などたくさんの馬と馬自慢が国中から集まります。「今年の馬」はどの馬でしょう?そして「今年の馬主」は誰でしょう。その今年の馬コンテストはあっという間に終わりました。チャップの圧勝です。チャップは予選をいとも簡単に勝ち進み決勝もほかの馬に大差をつけて見事に優勝をしてしまいました。馬コンテスト始まってからこんなに速い馬はいないと国中の馬自慢も驚きです。そうです、チャップは「今年の馬」になったのでした。そして、マゴウは、今年の馬主として高額な賞金と名誉を手に入れたのでした。その大きなニュースはものすごい速さで広がり、カジュの耳にも届きました。チャップが馬コンテストで優勝!「今年の馬」すごいよ!カジュは大喜びです。ところが、チャップの馬主はマゴウということになっています。カジュではありません。これはどういうことでしょう?カジュは急に元気がなくなりました。
続