ケイ・スリー
どこまでも広がる北の大地をさっそうとかけている馬がいました。体はキャラメル色で、おでこには、白い星模様がついています。大きな目、長いまつげ、遠くからでもわかるそのすみきった瞳は何を見てきたのでしょう。そしてどこを見つめているのでしょう。
ある町にカジュという少年とおばあさん、それにかわいい子馬が住んでいました。カジュにはお父さんとお母さんがいません。カジュが小さい時にお父さんとお母さんは仕事に出かけたきり帰ってこないのだそうです。手紙もお金も何の連絡もないのでどこでどうやって暮らしているのかも知りません。そんな二人と一頭は貧しくても幸せに暮らしていました。子馬のチャップを売れば、わずかでもお金になるのですが、チャップは家族の一員です。売るつもりはありません。カジュはチャップを弟のように大切に育てていました。命を育てる、それが一頭の子馬でも大変なことです。ある日のこと、チャップが病気にかかってしまいました。高い熱があり、体を横にして息をゼーゼーさせて苦しそうです。カジュは急いでソン獣医を呼びに行きました。ソン獣医はあらゆる動物の病気に詳しく、馬についての専門家でした。ソン獣医はチャップの様子を見てから「これは、やっかいな病気じゃ。強い注射すれば熱が下がる。それからが大事で、ちゃんと設備の整ったところで治療する必要がある。長い間の入院じゃ。高価な薬も必要だし、お金もかかる。子馬も大切じゃが、人間の生活も大事じゃからの。無理に治療はすすめんがね。」とカジュたちの生活のことも心配してくれました。
しかし、チャップの命には変えられません。カジュはチャップの注射をお願いしました。翌日、チャップの熱は下がりましたが、あまり元気がありません。ソン獣医の話のとおりこのまま家で育てられません。どこかに入院させるしかありません。カジュとおばあさんは相談してチャップをマゴウの牧場に預けることにしました。マゴウは町一番の実力者で、町のほとんどのことを仕切っていました。マゴウはお金のためならどんなことでもする人であまり評判はよくありません。それでもマゴウの牧場の隣にソン獣医の家があるので安心ですが、注射代に薬代それにエサ代などこれからお金がかかります。しかし、そんなお金はどこにもありません。カジュはマゴウと仲のいいソン獣医に頼んでマゴウの牧場に住み込んで働かせてもらえるようお願いしました。チャップのそばにいたいので、どんなにつらいことがあってもへこたれないと約束もしました。それから来る日も来る日もカジュは朝から晩までよく働きました。水汲み、エサやり、馬小屋の掃除、畑仕事、牧場の仕事は何でもやりました。もちろんチャップの面倒も。チャップのそばにいられるだけで幸せです。カジュが、がんばった分、チャップの病気が早く治ると思いました。
続