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シゲおばあさんのラーメン

ケイ・スリー

 町のはずれに腰の曲がったシゲと言うおばあさんがやっているラーメン屋さんがありました。店は古くて小さく、一度に何人も入ることはできません。しかし、お昼時には、並ぶお客さんの列で店が隠れてしまうぐらいの人が混みます。メニューは、醤油ラーメンの「大」と「中」しかありません。それでもものすごく人気のあります。また、この店にはきまりがあり、ほとんどのことを自分でやらなければなりません。テーブルをきれいに拭くのもお客さん。のむ水も、水入れタンクから自分でコップに注ぐのもお客さん。そして、食べ終えたどんぶりをさげるのも、全部、お客さんがやるようになっていました。それは、シゲおばあさんが、そうしてくださいとお願いしているのではありません。この店をシゲおばあさんが一人で店をきりもりしているのを、誰もが知っていて、そのほうが早くおいしいラーメンが食べられるからと、進んで手伝っているのです。このラーメン店をはじめたのは、もう何十年も前で、その頃は、おばあさんも若く、腰もまっすぐに伸びていました。若くしておじいさんが、病気で亡くなり、生活のために、こどもを育てるために、女手一つでこのラーメン屋さんをはじめたのです。シゲおばあさんのお手製のラーメンは、おじいさんの大好物でした。生きていた頃のおじいさんに、「これならお店を出せるよ」と太鼓判を押されたのが、ラーメン屋さんをやることになった自信ときつかけでした。

その頃は、お客さんも少なく、行列ができることなんてとても考えられもしませんでした。行列ができて並ぶようになさったのはここ数年で、シゲおばあさんの腰が曲がりかけてきてからのことです。しかし、ラーメンに何か特別なことがあるのでしょうか?味も作り方も昔からまったく変わりません。ずっと使われてきたどんぶりに、すっきりした茶色いスープ。中には細いちぢれた麺、上には薄く切ったチャーシューと味付けのメンマに渦巻きのナルトかまぼこ、それに、たっぷりのねぎがのせてあり、どこか懐かしく、やさしい味のラーメンです。特に変わったラーメンではありません。それでもお客さんの行列は続きます。ますますシゲおばあさんの腰は曲がっていきます。大きくなった子供たちは、シゲおばあさんの身体を気遣い、「手伝おうか」「誰かを雇おうか」と何度も声をかけますが、おばあさんは耳を貸しません。いつも、店に立ち、下準備から後片付けまでをきっちりと自分でやり遂げることが、シゲおばあさんの生きがいでした。子供たちも、そのことを知っていたので、店をやめるように強く言い出せないでいました。常連のお客さんは「いつもの・・・」というだけでシゲおばあさんは、手際よくラーメンを作ります。それがいつものシゲおばあさんでした。

そんなある日のこと。シゲおばあさんにとって、目に入れても痛くないほどかわいい孫、ヒロ君が遊びに来た時のことです。シゲおばあさんはうれしくてうれしくて、いつもより腕に縒りをかけてラーメンを作りました。チャーシューもメンマも大盛りです。「はい、特製のラーメン出来上がり」シゲおばあさんは、元気に孫に具だくさんのラーメンを出しました。おばあさんは「おいしい」という声が返ってくるものと期待していました。しかしヒロ君は、少し暗い顔をして「おばあちゃん、おいしくない。」と冷たく言ってラーメンを残したまま走っていってしまいました。その場にいたお父さんとお母さんは、何があったのかわからないまま、ヒロ君の後を追いました。公園でエーンエーンと泣いているヒロ君をお父さんが抱きしめ、尋ねました。「一体何があったんだい?」すると、泣きむせびながら「おばあちゃんの腰、段々曲がっていく。ぼくがおいしくないと言えば、おばあちゃんがラーメンを作るのをやめると思ったの。でも、ぼく、おいしくないってしか言えずに、店をやめてってまで言えなかったの」と震えながら言いました。「ヨシヨシ、ごめんな。お前にまでおばあちゃんの心配させて・・・」とお父さんは少し涙を浮かべて、ヒロ君を強く抱きしめました。

それからして、お父さんは、ヒロ君とお母さん(シゲおばあさん)にそれぞれの思いをわかりやすく伝えました。ヒロ君は、シゲばあちゃんに「おいしくないって嘘を言って、ごめんなさい。」と謝りました。おばあちゃんは、ニッコリ笑い、新しくラーメンを作り直しました。湯気の向こうでおじいちゃんも微笑んでいました。  終

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