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中年親父缶コーヒーをすする

ケイ・スリー

「おぅ、久しぶり」「元気してた?」「貧乏暇なし、働けど働けど・・・」「結構じゃん。忙しくて」「仕事があるだけいいよ!」「誰か仕事くれよ」「お前はどうよ?」「お、オレはコーヒーばっか飲んでるよ」「いいなー」

初めは三十人いた同窓会も二十年続けば地元の中年おやじ五人だけとは情けない。しかし、話しが見える距離感がいいと強がる。ただ、これを同窓会というのは、ちょっと無理がある。夜の大宴会の前にメインイベントがあるのだ。みんなで打ち合わせと称しパチンコを興じるのだ。毎年この集まりは新年のため、一年の運勢を占う余興として始めたが、誰一人として負けるつもりでは参加する者はいない。勝つのだ、勝って、夜の飲み代を浮かせるぐらいの野望は持っている。初めは軽いノリだったのに、年々集合時間は早まっている。みんな本気なのだ。高校時代、いつも連んでいた仲間はバラけ、今ではたったの五人、勿論、職業も仕事も異なり生活環境も違う。しかも、ここ数年は話をしていてもたズレを感じるのはお互い様なのだ。だから、この時ばかりとあの頃に戻って、ひとつの目標に向うのだ。

五人は勝手に集合し勝手にバトル開始する。そして大当りした者が飲み物を配るというのが俺たちのルール。

早速、会場について二十分もしないうちに本日のラッキーマンが、缶コーヒーをくれた。

「先に大当りしたさかい。あんたはブラックやったね。」(それにしても昔から強運な奴だ!勝ち組みを誇る顔がちょっと憎たらしい。)

「オー、サンキュー。流石だね。俺もそろそろエンジンかけるわ。」(俺のブラックを覚えてたんだ。ちょっと感動)

おっととこんなんで動じていられない。貰った冷たい缶コーヒーを台下のドル箱にしまい、正面の一台に集中する。何度かリーチや激アツモノがかかるが絵柄は揃わない。やはり、そう簡単に当たるものではない。俺ってこんなものか?やればできる子のはずなんだ。こんな時は気分転換、缶コーヒーのタブを開き、もやもやを溜めこんだところに一気にコーヒーを流し込む。そしてフウッーと熱い息を吐き出すとコーヒー独特の香りに包まれて落ち着きを取り戻す。ここからが正念場、他の中年親父、いや右隣の若者や左隣のおばさんにも負けられない。熱くなることを抑えられない年でもないが、バトルは延々と続くのだ。あたかも人生の縮図がここにある。途中、仲間たちは様子を見に来たり、飲み物の差し入れしてくれた。そして夜の大宴会では、「兵どもが夢の跡」やら「わが世の春」の談義から昔の思い出話に花が咲く。しかし五人とも自分の近況や他人の傷口に触れようとしない。それが大人の流儀。それでいてみんなそれぞれが大変なことを知っているのだ。

俺は現場に戻ってもただの中年親父だが、時々思い出すことがある仲間たちの顔。正直、いつも窮地とは限らないが「奴らならどうする?」と缶コーヒーをすする。

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