ケイ・スリー
夏の暑さを木陰で休んでいるオラーという天使の前に、二人男が現れた。
半袖シャツにスラックスを履き、お笑いか?堕天使か?
いや、サラリーマン?
「旬くんでーす」「米(ヨネ)でーす」
旬は20歳半ばの男、スラーとした長身、二枚目ではないが人懐こい顔をしている。
ヨネは嫌味な初老のおやじ、「みちかぷんとこ」※ でキザなメガネをかけている。
※「みちかぷんとこ」は津軽弁で背が低くてぽっちゃり
お笑いにはいろいろなコンビがあるが、おやじと孫の世代で漫才するとは組合せは珍しい。
旬くんは隣のヨネを見ながら(ヨネって登場は何よ、何なん?ヨネスケのくせに・・・)と思っているみたいだが口にはしない)
- 天使のオラーは人の心が聞こえるのだ。
とりあえずその二人組が目の前に現れて話し出した。
旬:あの坂道シリーズは、なんであんなに自己中でわがままなんでしょう。
(”坂道シリーズ”とはK坂さんという、アラフォーの女性パートタイマー。10年以上この会社に勤め、会社のことは何でも知っているお局様なのだ。無双、自分勝手、但し仕事もできるので誰も何も言えない。勝てない。)
米:何にがあったんだい若者よ。わがままな女は好きだよ。わがままは女のアクセサリーじゃないの?
旬:今さっき、課長に呼ばれ僕とK坂さんの席替えが決定したと言われたんです。
冷房がきついことを理由に席替えです。
米さん、今まで隣の席でありがとうございました。私はK坂さんと入替になので今度から米(ヨネ)さんのとなりがK坂さんで僕は向かい側に座ることになります。
後は隣に来るK坂さんと上手くやってください。
それにしても寒いから席替えって何よ? 普通は、冷房を弱めるとか、一枚上に羽織るとか、ブランケットを持ってくるとか?まずは自分で何とかするでしょ!
それにK坂さんのやり口が良くない。
本当は隣のパートのN畑さん(K坂と同期採用)とトラブルがあったみたいです。昨日まで仲良しだったのに。何があったんですかね。「我慢の限界」って叫んでいたみたいですよ。みんな引きますよね。それからK坂さんは直接、部長のところに行って相談したんですよ。普通は課長が先でしょ。おかしいでしょ。いくらパート採用といっても相談や報告とか順番とか常識はあるでしょう。
この熱さで冷房に切替えましたが何日も経ちますよ。これまで何の問題なかったのに、いきなり大きな問題になってしまうなんてあり得ませんよ・・・。
一人の意見も無視できないコンプラ社会※とはいえ、パート社員の気分で変わるんですよ。
※コンプライアンス:企業が法令や社会的規範を遵守して活動すること
そして、彼女の一言「前から思ってましたが、この会社は社員の体のことに気をつかってくれないんですか?パートだからですか?」とフロア全体に聞こえるようにして、ぶつかっていったんですよ。課長の立場もない。課長が言うには、体調を理由にされると会社側も困るらしく。この時代、就業環境に配慮しなければならないんだそうです。本当はご無理せず退職いただいても構わないと言いたいんでしょうけれどね。
米:よくある話。よくある話。君は席替えが嫌なのかい。
K坂さんが嫌なのかい?君も席替えを頼んだらどうだい?
(他人事と面白がっている。とても喜んでいる。よくやった。)
旬:冗談やめてくださいよ。そんなこと言えるはずないじゃないですか。今回は席替えすることにしました。
K坂さんが勝手でいい迷惑ですよ。本当に周りとトラブル起こすモンスターは怖いですね。なんかこんなもらい事故を防ぐ方法はないものですかね。
米:もちろんあるよ。オレにぶつけてくれ!それがいい。
俺はぶつかってくる女は大好きだ。むしろぶつかってくる女のために生まれたといっていい。女のトラブルはオレに言え!人にとっては小さいことかもしれないが、本人にとっては大きなこと。K坂さんのことは俺に任せなさい(どや顔)
旬:あっそうだった。(ヨネスケは仕事ができない人だ。年だけ取って、仕事はしない。できない。覚えない。やることなすことトンチンカンで結果、後から周りの人が迷惑するタイプの人だと聞いている。残念な先輩なのだ。それでもこれまで会社にいられる鈍感さ、無神経さ、タフさがすごい。朝のラジオ体操だけを張りきる不思議な人だ。勿論人望もない。今のところ嫁も恋人もない。今までも女性歴もない人だ。)
- そこで天使のオラーは閃く。
ぶつかるには理由ある。何事も。やっぱり愛だね。
(旬くん、二人はできてるぞ。ヨネスケとK坂さんの愛のカタチと少し変わっているが面白そう。見守ってやれ。)
続