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ぼくの指定席 #1 of 3

ケイ・スリー

 ぼくの名前はケン。まだ小さいぼくは、とある施設に預けられている。淋しがりやのぼくをひとりにしておけないと、パパが仕事のときに預けているのだ。ここには、ぼくのような仲間が集まっている。みんなも朝、パパやママに送ってもらい、夕方、迎えに来てもらうのだ。パパも仕事が終わると自慢の赤い車でやってくる。くねくねとした坂道をドルルルン・ドルルルーンとエンジンの音を響かせやってくる。その音が聞こえるだけでパパの車だとわかるのは、たった二人きりの家族だから当たり前だ。ぼくはパパが来るのを待っている。それは、施設のおじさんやおばさんに意地悪されたわけでもないし、友だちとけんかをしたわけでもない。ただ、パパと一緒にいたい、それだけなのだ。ここでは、勉強したり、遊んだりして過ごす。ちゃんとご飯だって食べさせてくれるし、お昼寝だってできる。ここが嫌なわけでもない。それでも、ドルルルン・ドルルルーンとパパの車の音が聞こえると、帰り支度をパパッと済ませて、建物に入ってくるパパの胸へ飛び込んでいくのだ。そんなぼくをパパはしっかりと受け止め、そのまま車まで運んでくれる。そして、ぼく指定の助手席におさまるのだ。車の中は、エンジンの音が聞こえないぐらい静かで、いつもパパお気に入りの曲が静かにかかっている。そこは、パパのにおいに包まれてとても落ち着く場所だ。パパは離れていた時間を埋めるかのように話しかける。

「淋しかったろう。今日はどうだった。」

「お腹すいたろう。何か食べたいのはないか?」

「ほしいものはないか・・・?ところで、どこへ行く?」

ぼくは、何も答えず、ただ微笑んでいる。そんなぼくを見て、

「お前はやっぱり、かわいいやつだな!」と言って、頭をなでてくれることもある。ぼくは、それだけでとても幸せでした。

家は、車で二時間もかかりかなり遠いところにあります。しかし、家で待つ人もいないので、急ぐ必要もありません。ぼくらは、途中、晩ごはんを食べたり、遊んだりして家へと帰る。パパは車でいろいろなことを話してくれる。小さいぼくには、よくわからないこともあるけれど、パパの顔を見ているとなんだかわかるような気がしてくるから不思議だ。時には、何も言わないぼくに、「お前はやっぱり、最高の相談相手だ!」と言ってくれることもある。 車の中はパパとぼくの二人だけの時間が流れている。たまには、パパが図書館に立ち寄ることもある。そんな時、ぼくは邪魔にならないように車で待っていたりすることもある。

それにしてもこの助手席は居心地がいい。帰り道、気持ちよくゆられているうちに眠ってしまうことがある。そして気がつけば、朝ということも何度もあった。そして、その反対にぼくらの朝はとても忙しい。朝寝坊のパパは会社に間に合うぎりぎりの時間に目覚め、あわてて顔を洗い、パンをかじったまま車へ乗りこむのだ。そこはぼくも同じだ。

朝のドライブは、あっという間に終わってしまい、ぼくは施設へと送られ、パパは会社へと向うのだ。

そんなある日、施設に若い女の人が現れました。そして、その女の人は、ぼくの個室をしばらくのぞき、それから、施設のおじさんと何かを話して、ぼくは呼び出した。

なんだろう?ぼくは、その人を知りません。女の人は、片手に持った書類とぼくを交互に見くらべ何かをチェックしているようでした。

そして、「OK!じゃあ、連れて行くわ!」と言って、ぼくを抱きかかえ、そのまま外に連れだしたのでした。

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