旬くんは口をパクパクさせ生きている。
旬くんは20歳半ばの長身のサラリーマン、人懐こい顔をしている。いつも周りに振り回されて、その都度、戸惑い、怒りとやるせなさを一蹴、愚痴ばかり言っている。
その愚痴の捌け口のベクトルは、賭け事、博打、ギャンブルだった。
男の嗜みなんて格好いいものではない。
ただのパチンコ依存症なのだ。
その瞬間は、その場に一点集中、浦島太郎よろしく、浮世のことは何もかも忘れ、夢中でいれる最高の時間だ。
結果は天国と地獄。天国言ってもチャラかやや勝ち程度でほとんどが苦汁を喫し深い深い借金地獄へと落ちていく。
それがわかっていてもやめられない。
コーヒー代、メシ代削ってみるも効果はない。
酒とたばこはやめられない。
それもこれも自分で招いものだ。
旬くんの頭の中は「借金」のことでいっぱいだ。
●どうやって金返そうか?
毎月の返済は利息だけだがその返済もきつくなっている。
金融機関からの請求書は毎月、実家の母のところに送られる。実家といっても市営住宅で母一人住まいだ。母には仕事の関係だから、誰にも迷惑かけないからと他言無用にしている。
生きていくのも辛い。このまま生きていても何の希望もない。いいっそ死んでしまおうか?と考えることがある。
簡単に死ぬ方法はないか?痛い思いはしたくない。
痛さや辛さを感じる前に死ねないか?
高いところから飛び降りるか?
死ぬ場所はどこにしよう?
その場所が生き残った家族の生活圏だったら、その場を通るごとに嫌なことを思い出させることにならないか?
あくまでも事故死を装いたい。自殺はまずい。
家族には借金苦とかの悩みも知られたくない。
身内でたった一人の母親より早く死ぬことは申し訳ない。親不孝者だ。
そもそもちゃんと保険金がおりるのか?
保険で借金を全部精算するだけじゃなく、プラス財産を残すことができれば家族の生きる糧にはなる・・・
●借金を返済しない方法はないか?
自己破産なら会社にいられなくなるだろう。
そうなると弁護士費用も大きくかかるだろう。
残念なのは借入が過払いの対象外だったことだ。
徳政令にならないだろうか?
天変地異、戦争や災害で世の中が大変なことになれば・・・法律は変わらないか?
貧乏人のこどもはどう転んでも貧乏だ。
金のあるところに金は集まる。
汚職した政治家や悪事を働いた金持ちの全財産を没収できる強い法律でもあればいいのに・・・
旬くんは口をパクパクさせ生きている。
天使のオラーは知っている。
この後、旬くんのパチンコ借金は清算される。
それは旬くんのお母さんが、何とか工面したものだ。
ひと息ついた旬くんだったが、そのお母さんの寿命が長くないことには気づいていない。
天使のオラーは知っている。
半年も経たずして旬くんがパチンコ店に入って行くことを・・・
続