ケイ・スリー
カジュはマゴウが馬コンテストの祝勝会から帰ってくるやいな、マゴウのお屋敷に走りました。マゴウの屋敷に入るのは初めてです。屋敷の中は高価なものがあちこちに置いてあります。カジュはそれに目を奪われることなくマゴウのところに急ぎました。マゴウはゴージャスなリビングにあるフカフカのソファーに腰掛け、きれいな奥様とカジュと同じくらいの年の娘アニーとおいしそうなケーキ食べながらアフタヌーンティを楽しんでいました。もちろん、そばにはで召使のイワンもいます。馬コンテストのことをでも話していたのでしょう。みんな笑顔でした。
そこにカジュはいきなり現れて叫びました。
「チャップは、ぼくの馬だ。」
「何だ、きみは?人の屋敷に勝手に入ってきて!」マゴウは怒鳴ります。
「雑用係りのカジュでございます。チャップの世話をしております。」召使のイワンがすかさずに説明します。
「あれはぼくの馬だ。何であなたが馬主になっているの?ドロボウじゃないか?」
カジュは問い詰めますが、マゴウは、全く取り合ってくれません。
「何を言っている。あれは、わしの馬じゃ、わしの馬をどうしようが、わしの勝手じゃ。」
「違う、ぼくの馬だ。」と、がんばりますが、最後には力づくで放り出されてしまいました。
カジュの怒りは収まりません。カジュは、チャップを連れて帰ろうと馬小屋に向かいました。しかし、馬小屋の中にチャップの姿はありません。
チャップは、ぼくのものだ。ぼくはチャップのために働いたんだ。マゴウだからって人のものをとるのは許されない。チャップだって決して喜ばない。チャップは、ぼくの家族なんだ・・・とカジュは自分に言い聞かせました。
チャップはどこに行ったのでしょう。カジュは途方にくれているところに、ソン獣医がやってきました。マゴウのお屋敷であったことも知っているようです。
「チャップをつれて帰るつもりだったのだろう?」カジュはコクリとうなずきました。
「ドロボウになっちゃうぞ!」
「あれは、ぼくの馬だ!」
「きみは、チャップを自分の馬だというけど、本当にそうかな?あのまま、きみの家にいたらどうなっていただろうな。注射代も薬代もなく食べていくのにやっとの生活。あのままだったらきみもチャップも死んでいたかもしれない?例え病気が治ってもお金がなくてチャップを売っていたかも知れない。そんなきみとチャップを助けたのはマゴウだよ。マゴウにはその気があったかどうかは知らないがね」
「でもあれは、ぼくの馬だ。ぼくだってチャップの病気を治すために、ここに住み込んでまで働いたんだ。」カジュは涙を流して訴えます。
「世の中はどっちのことを信じてくれると思う?きみかな?マゴウかな?きみの力だけでチャップを育て、馬コンテストに出すことができたかな?それにチャップにとっての幸せを考えたことがあるのかい。もしかして今年の馬でもらった賞金がほしかったのかい?」冷たく謎かける言葉にカジュは、悔しくて、やりおうがない気持ちになりました。確かにチャップはここにいたから病気が治り、マゴウがチャンスを与えたから馬コンテストに参加することができたのです。そして今年の馬になったのです。カジュは何が何だかわかりません。泣いて泣き疲れて涙も枯れてしまいました。たった一人の味方、おばあさんの待つ家に帰るしかありません。
続