「おー、こんばんは」意外にも人間の声がしました。
男は、恐る恐る薄目を開けると、そこには、とても小柄のおじいさんが立っていました。小人にしては少し大きいか? もしかして仙人なのか?草木と変わらない緑色の服を着て、白い髭を生やし、透けるような白い肌をしています。まるで緑色の服を着た小さなサンタクロースのようです。
そのおじいさんは久々に人間に会ったのがうれしいらしく、呆然としている男を尻目に一人で話し出しました。
「びっくりしたじゃろう。わしは、この森に住んでいるただのおいぼれじゃ。お前さん、この森に何をしに来たんじゃい。靴も服も森に来る格好ではないし、荷物もないようじゃが・・・」
男は、面を食らって、答えるゆとりもありません。
おじいさんは、すべてのことをお見通しのようです。
「話したくないことはあるものよ。まぁーよい。人には、それぞれ事情があるからの・・・。」そう言っておじいさんは自分が森の住人になるまでのことを話だしました。
昔、おじいさんは、裕福な家に生まれ、何の不自由もない暮らしていました。しかし、お父さんとお母さんが亡くなってからは、これまで親しくしていた親戚や知人に騙されるようにお金や財産をとられて無一文になってしまいました。おじいさんはそれからいろいろな苦労をして働きました。そして結婚し、子供もできました。おじいさんはいっそう仕事に励み、また、幸運に恵まれてお金も財産も手に入れました。しかし、家族との関係はうまくいきませんでした。妻とのすれ違いが続いて、妻は子供を連れて出て行ってしまったのです。おじいさんは仕事に追われ、その後を追いかけることもしませんでした。それから数年して二人目の妻を迎えました。その妻は、おじいさんのお金だけが目当てで結婚したのでした。お金を湯水がごとく使うだけ使い、贅沢三昧にあけくれる日々。それでもおじいさんに対しての愛情があれば何の問題もないのですが、彼女は、おじいさんよりお金のほうを選んだのでした。おじいさんは二人目の妻に財産のほとんど渡して別れました。おじいさんはこれまでの人生を振り返り、若いころに共に苦労したはじめの妻とやり直そう思いました。お互い愛し合い、お互いのために別れた二人。バラバラになった心もひとつひとつつなぎあわせいけばいいじゃないか!世の中、お金だけがすべてじゃない、もっと大事なものがあるはずだ。気がつくのは遅くなってしまったが、今より遅くなることはない。それから四方八方に手を尽くしてはじめの妻の行方を捜しました。
ところが、その行方にはとても悲しい結末が待っていました。