ケイ・スリー
突然、仲間のミツバチが騒ぎ始めたのです。
何があったのかわかりません。しかし、お父さんは、ものすごい勢いでハチの巣の方に戻っていくのが見えました。早速、わたしも追いかけますが、お腹がいっぱい上に、お父さんのスピードには、到底ついていけません。」
ようやく、青い池の上で、仲間のミツバチが飛んできました。
「何があったの?」
「っ、くまが、巣を襲ってきたんだ。」と息をきらせて言いました。
「あくま?」わたしは、きょとんとしていると、
「熊だよ、熊、あの大きな怪物が、ぼくたちの巣を襲ってきたんだ。もうめちゃくちゃだよ。勇敢な仲間たちは、熊に反撃中。キミも今すぐ行って手伝ってくれ。ぼくは、ほかのみんなに伝えに行くよ。」と、飛んで行ってしまいました。わたしは、急にお父さんやお母さんのことが心配になり、一目散にハチの巣に戻りました。しかし、熊は、もうどこかにいなくなっていました。そこは、むごい状況になっていました。ハチの巣は、鋭い熊の爪で掻かれ見るも無残な姿でした。巣は半分以上壊されていました。地面に落ちた巣の残骸には、まだ、卵や幼虫がいます。熊に潰されてして、跡形もなくなったものもいました。わたしは、お父さん、お母さん、それにお兄さんを探しました。必死に必死に探しました。
しかし、どこにもお母さんもお兄さんも見つかりませんでした。
それからどれくらい時間がすぎたでしょうお父さんが、ボロボロの姿で見つかりました。羽に穴が開き、足も折れています。そして、お尻の針がなくなっていました。それでもお父さんは、熊に一撃を与えることができたと満足そうな顔でした。お父さんがいなければ巣は跡形もなかった。お父さんの一撃で、熊は逃げていったんだと後で仲間からきかされたのです。それからしてお兄さんとお母さんが見つかりました。お兄さんは、からだの調子のよくないお母さんをかばって、熊からずうっと離れたところに身を隠したのでした。
どんな苦労も家族が集まれば何でもできます。
怖いものなんてありません。それから仲間たちとハチの巣を作りなおさなければなりません。お父さんは、体がガタガタになり、飛ぶこともできなくなりましたが、巣の中で、羽で風を作ったり、花粉を運んだりと休む間もなく働いて働いたのです。そうしているうちにお父さんは亡くなりました。お父さんは、からだが弱ってからも落ち込むことなく、「オレは、オレのやれることをやる。これからは君たちの時代だ。君たちがこのハチの巣を守っていけ。」と常々話していました。
そこで眠りがさめました。気がつけば、しわたしは、40歳の自分に戻っていました。小さいころの思い出やミツバチのことの夢でも見たようです。お父さんが亡くなった年齢になり、お父さんのことを少し思い出したのかもしれません。ソファーに横になり、眠ってしまった私に薄い毛布がかかっていました。キッチンからはホットケーキの焼けるいい匂いがします。あっそういえば、今日は父の日。甘いハチミツの香りもしてきました。
終